ニューヨークの風〔肥和野佳子

ニューヨークの風4(2008.3.15)

チキンハム?

わたしは長年、アメリカで生活しているが、30才になってから米国に来たので英語は米国育ちの人のようには、やはりならない。日常生活で、英語で同じ単語のはずでも日米で意味が違うことがたくさんあって、そのつど、へーと思う。

たとえば、英語でストーブといえば、冬の暖房機のストーブではなくて、日本でいう台所のガスコンロ。米国の台所のコンロはオーブンと一体型になっていて、ガスの場合、上がストーブトップと呼ばれ、それがいわゆるガスコンロ、下の部分がガスオーブンになっている。

ちなみにどの家庭にも基本的にオーブンはあるので、電子レンジは電子レンジ機能専用で、日本のようにオーブン機能つきの「電子オーブンレンジ」なるものはお目にかかったことがない。

また、暖房はセントラルヒーティングなので、個別の電気暖房機(日本でいう電気ストーブ)はヒーターと呼ばれる。石油ストーブやガスストーブは米国では売られていないようだ。

アップルサイダーといえば、炭酸飲料のサイダーではなく、りんご果汁のジュースのことで、全く炭酸は入っていない。アップルジュースは透明なりんごジュースのことだけれど、 アップルサイダーは透明ではなくて、りんごが酸化して茶色くなった色のりんごジュースで、作り方がちがうようだ。アップルサイダーは甘くておいしい。とても好きだ。

三ツ矢サイダーのせいか、サイダーといえば、日本人は炭酸と思うけれど、日本の英和辞典でサイダー(Cider)を見てもたしかにそんなことは書いてない。三ツ矢サイダーのサイダーは一体どこからきたのだろう?果汁と関係ない気がするが…。ちなみに炭酸飲料は総称としてソーダ(Soda)と呼ばれる。米国西海岸ではパップ(Pop)とも呼ばれる。(註・1907年に「三ツ矢シャンパンサイダー」として発売されたが、1968年に「シャンパン」が登録商標となったため「三ツ矢サイダー」となったそうです)

ハムもそう。ハムといえば、日本ではあの薄切りの加工食品の総称として使われる。しかしアメリカでは、総称ではコールドカットと呼ばれる。ハムというのは豚のお尻の肉のものでないとハムと呼ばない。 だから「チキンハム」とか「ターキーハム」とかアメリカではあり得ない。

ハンバーガーもそう。ハンバーガーと呼ばれるのは牛肉のハンバーグがはさまれているものに対して使われる。 チキンをはさむなら、いくら形がハンバーガー形式でもチキンバーガーと呼ばれることはなく、チキンサンドイッチと呼ばれる。

日本でいうフライドポテトは、アメリカではフレンチフライと呼ばれているのは結構日本でも知られているようだけれど、フランスではなんと呼ばれているのだろう?(註・Frite=フリットというらしいです。)

日本でいうアメリカンドッグはアメリカではコーンドッグと呼ばれる。ソーセージの周りを包んでいるのはトウモロコシの粉からできたものだからだ。

ホットドッグも、えーと思うことがある。日本では暖めたソーセージを長いコッペパンみたいなパンにはさんだものをホットドッグと呼ぶ。アメリカでも基本的には同じなのだが、実は、はさんでいる「ソーセージ」そのものも「ホットドッグ」と呼ばれる。だから、パンがついていようがいまいが、ホットドッグ。太めで直径2〜3センチ、パンと同じくらいの長さのソーセージで、挽きが細かくて色は薄い。

ホットドッグを食べるとき、私が米国人の夫に「ホットドッグのこのソーセージは塩辛い。」と言った時のことだ。

夫「これはソーセージじゃない、ホットドッグだ。」

私「えー?ソーセージじゃないって?じゃあ、ソーセージってなんなのよ?」

夫「ほら、よく肉屋で買う、いろんな味の腸詰のやつのことだよ。」

ということなのだそうだ。アメリカでソーセージといえば種類が豊富で、日本ではお目にかからないようなものがたくさんある。中身にいろんなスパイスが混ざっていたりして、挽き方もいろいろだ。ホットドッグに使うものとはたしかに類が違う。

でも、ヨーロッパ(ドイツ)のホットドッグはアメリカのようなホットドッグ用のソーセージとは違ってアメリカ人がいうところの色の濃い粗挽きソーセージがはさまれていたなあ。だから、あのソーセージ自身をホットドッグと呼ぶのはたぶんアメリカ人だけかも。言葉って本当にたいへん。(註・もともとフランクフルト・ソーセージのことをダックスフント・ソーセージと呼んだところから「ドッグ」が出てきたそうです。)