ニューヨークの風〔肥和野佳子

ニューヨークの風5(2008.4.15)

楽器と左利き

 コンサートに行くといつも思うのだが、弦楽器奏者は、みな同じ方向に弦をひく。 バイオリンはなぜ、左手で弦をおさえ、右手で弓をひくのか? 左利きの人も中にはいるだろうに、子どものときからそうやっているから慣れてしまって問題ないのか?

弦をおさえるのは力がいる。弓を弾く手のほうが簡単そうに見える。 しかし弦楽器はバイオリンもチェロもギターも三味線も、一様に左手で弦をおさえることになっている。

ギターを中学生の頃、少しだけ遊びでやったことがあるが、私は右利きで、左手は力が入れにくくて、弦をしっかりおさえるのが簡単ではなかった。右手だったらもっとしっかりおさえられるのになあ、と思った。でも、右手のほうが細かい芸ができて、利き手で音を奏でるのが大事なのかなあ…と長年疑問に思っていた。

最近バイオリンを趣味で習って自分で体験してわかった。 バイオリンはやはり、弓を持つ手が大事だ。簡単そうに見えて実は右手はとても難しいのだ。 弦を押さえるだけならそんなに難しいことではない。すばやくしっかりおさえなければならないにしても、弓をひく手に比べれば、左手のすることはむしろ単純だ。

ボウイングがこんなに難しいとは! 弓の角度、圧力のかけ具合、ちょっとしたこすりかたで音がずいぶん違う。利き手でないほうでは加減の調整が難しいだろうなあ。

ギターの場合はちょっと事情がちがう。バイオリンとちがって弓を使わない。手かピックで、「ジャン、ジャン」と和音を奏でるだけの場合が多くて右手は簡単そう。アルペジオの場合は指の動きが大事になると思うけど。

しかし、ギターでもやはり、利き手で音を奏でるほうがやりやすいらしい。エレキギターなどは、左利き用のものをたまにプロなどが使っているのを見ることがある。

しかし、クラシックの世界で、弦楽器で左利き用なんて見たことがない(実際にはあるところにはあるらしいが)。弦楽器に限らず、木管楽器も金管楽器も、ピアノも みな同じ方向に作ってある。

ピアノなんて、左右逆で、左に行くにつれて高い音階になったとしたら、おもしろいな。 どんな曲でも初見で弾ける凄腕のピアノの先生でも弾けないだろうな。

オーケストラは人数が多いので、きっと何人かは左利きの人がいるに違いない。指揮者をしている友人は「ティンパニ奏者が左利きだとすぐわかる。左打のほうが強くなる傾向があるから。」と言っていた。また別の友人の妹さんは左利きだけれどプロのピアニストになったと聞いた。

左利きの人ってクラシック音楽の演奏家として、どうなのだろう? やはり不利なのか?問題ないのか? 左利き用の楽器があってもいいような気がするけど、どうしてないのか?

まあ、考えられるのは、コストがかかりすぎて商売にならない、 右利き用の楽器で慣れると、左利きでもそれほど不利にならないのかもしれない、 左利き用の楽器を教えられる先生がほとんどいない、 左利き用の楽器をマスターしてもソロならともかくオーケストラには入れない(方向がそろわないから。でも方向を何が何でもそろえなくてはいけないのか?)などかなあ。

どうなのでしょうねえ?